モノは、試しで。

贈り物のきっかけ


そろそろ母の元に荷物が届く頃だろうか。



いつでも帰れると思っていた実家も、ここまで帰れないとなるとさすがに寂しい。
家が賑やかになる時間を心待ちにしている母のことも気掛かりだった。
「帰れるかもしれない」「やっぱり難しいね」その繰り返し。

手が5本あるんじゃないかと思うほどの手際の良さで、同時に何品も料理を作る母。
寡黙そうだけど、おしゃべりを始めると喉がカラカラになるまで止まらない母。

春先に送ってくれた荷物のお礼もできていない。
段ボールが明らかにいつもより大きくて、もしかしたらこの状況がしぶとく続くことを母なりに予想していたのかもしれない。

娘がバタバタと走ってくる。

「ママ電話!!おばあちゃん!!」




ちょうど一週間前のこと。9月21日は敬老の日だとテレビから聞こえてきた。

形式上は「おばあちゃん」になった母だけど、あのテキパキとした姿を思うと正直全然しっくりこない。

あっという間に幼稚園、小学校…
娘の成長という眩しい部分ばかりについ目がいくけど、私も母も同じだけ歳を重ねているということが、当たり前のようで不思議なことに思える。



しっくりこないと言っておいて安易だなぁと思いながら、スマホに [ 敬老の日 ギフト ] と入力して検索する。
いつも見ている雑貨の通販サイトもギフト特集をしている。

敬老の日を、いいきっかけと思うことにしよう。
母に贈り物ができる日が増えるのはうれしい。



「あー!これママのやつだね!」

スマホをのぞき込んで娘が指を差したのは、ママ友から貰ってすっかり必需品になった、あの首からかけるリーディンググラス。

敬老の日の話をすると、娘はすぐに「おばあちゃんもかわいいって言うとおもう!これにしよう!」とはしゃいだ。




母もリーディンググラスを使っている。
出先で文字を書くとき、メニューを読むとき、そういえばよく鞄の中に手を入れて
「あら、忘れてきたかしら…あったあった…」と小さく呟いていた。

「おばあちゃんはあかるい色が似合うから、これがいいと思う!」
「気に入ったわぁ~って言ってくれるかなぁ」
「これはすっごいおとなっぽいね!」

私の持つスマホを娘は器用に指で動かす。止まらないおしゃべりは私譲りで、母譲り。
「気に入ったわぁ」というのは、母の口ぐせ。
久しく聞いていないその言葉を聞きたくなってきた。



娘が少しふくれた顔を向ける。

「ママもちゃんと選んでよ!!」









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